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お茶くみ、コピーを頼まれたら?セクハラ・パワハラになる線引って?

ある日、のどが渇いた部長は、軽い気持ちで近くの女性社員に声をかけました。

部長「おい、田中君、お茶を淹れてくれないか」

田中「部長、失礼ですがそれってセクハラですよ。お茶くらい自分で淹れてください」

部長「えっ、セクハラ!?」

もちろんそんなつもりなどなかった部長はびっくりして、法務に相談にいらっしゃいました――これって、セクハラなのでしょうか? 私は処分されてしまうのでしょうか、と。

よくあるシーンなのに……これってセクハラ?

会社のシーンが出てくるテレビドラマなどだと、若いOLさんが中年男性の部長や課長の席にお盆を持って近づき「部長、お茶です」「うむ」なんていうシーンがたまに出てきます。

一昔前、バブル時代くらいまでは、結婚のお相手を探すためだけに会社に就職し、結婚してそのまま退社してしまう「腰掛けOL」なんていう人たちがいました。彼女たちはスキルアップなんて望んでもいませんでしたから、比較的安いお給料でお茶くみやコピーのような簡単な仕事をし、定時になったらさっさと退社するという働き方をしていたようです。

しかし今やバブルは過去のものとなり、女性もスキルアップや社会貢献のために、あるいは単純に生きていくためのお金を稼ぐために、正社員として就職することが増えてきました。当然立場が同じとなれば、仕事量もそれに伴う責任も、男性と同じくらい多くなります。そのようななかで、女性社員にだけお茶くみやコピーを頼むことははたしてセクハラになるのでしょうか。

セクハラの定義とは

労働基準法や男女雇用機会均等法などにより、特殊な職種を除き、性別により仕事の内容に差があってはならないと法律で規定されています。よって、お茶くみやコピーなどはいわゆる雑務に該当しますが、その雑務を女性にだけ押し付けることは問題になります。

一方で、セクハラとは、性的な言動や行動を強要することをさします。仕事に直接関係ない飲み会の席でのお酌の強要や、勤務時の服装に(服装規定では「スーツ」としか書かれていないにもかかわらず)パンツスーツではなくスカートをはくように指導するなど、性的と思われる事例についてはセクハラと判断されるケースが多いですが、お茶くみやコピーが性的かと問われると、それについては疑問が残ります。

性犯罪は、犯罪の中でも特に恥ずべきものという意識が社会にあります。そのため、セクハラは会社の中で起きる問題のなかでも、汚職や横領などと比べても白い目で見られがちです。そのため最近では、何でもかんでも「セクハラだ!」と騒ぎ立てれば、上司のほうがびっくりして手を引いてしまうような事例もありますが、性的な嫌がらせでなければ本来セクハラとは言わないのです。

セクハラにならないなら、お茶くみやコピーを強要してもいいの?

そのようにご説明したところ、部長は「セクハラにはならない」と聞いて非常に安心していらっしゃいました。ただし、ここには一つ落とし穴があります。お茶くみやコピーの性的嫌がらせのセクハラではないですが、本人の能力に対して不当な仕事を押し付ける「パワハラ」に該当する可能性があります。

本来であれば、会社としての主業務を担当すべき正社員として雇われている社員に対して、契約社員やアルバイトでもできる雑務ばかりを担当させるのは、「本来の仕事をさせない」という「パワハラ」の条項に該当してしまう可能性があるのです。

もちろん雑務もまた業務を円滑に遂行させるためには必要な作業ですが、会社によってはそういう作業は庶務課社員の担当になっていたりすることもありますので、本来その雑務をすべき担当者がいるのであれば、そちらに頼むのが筋なのです。

また、雑務の担当者がいないため、正社員が手分けして雑務も実施するような職場環境だとしても、特定の社員だけに雑務を押し付けるとその社員に対するパワハラだと判断される可能性が高くなります。

お茶くみやコピーについても、特定の社員、それも特定の女性社員にだけいつもお願いするとなると、パワハラだけではなく、「お茶くみやコピーは女性社員がやるものと思っているからいつもその女性社員に頼むのではないか」という見方をされてしまうと、本来は該当しないはずのセクハラとしても罰せられる可能性が出てきます。

ですから、部下に雑務を頼む際には、偏りがないように、いろいろな社員にまんべんなく雑務を割り振るようにしたり、あるいは特定の誰かに頼むのであれば、「その社員は雑務くらいしか仕事ができないから(=パワハラ)」や「雑務は女の仕事だろう(=セクハラ)」などではなく、第三者が見ても妥当だと納得できるような理由をちゃんと用意しておきましょう。