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創業から46年。三代続く国産分銅事業の極み【名古屋精機製作所 佐野健人さん】

名古屋精機製作所 佐野健人さん

名古屋精機製作所について

名古屋精機製作所は1968年の創業より46年間、親子三代に渡り分銅の製作所として高い品質の国産分銅を制作・販売している。この製作所で熟練の技術により生み出された分銅は、研究機関や大学、大手工業系企業にて活躍している。海外にて低コストで作られる輸入品が増える中で、現在も第一線で国産の高品質な分銅作りにこだわる製作所である。

現在の立場に就くきっかけ、またその時期を教えてください

僕がまだ大学生で、先代の社長がまだ父だった頃に祖父が病気で倒れたことがきっかけです。その時に僕は会社を継ぐことを決めました。それまではいろいろな業種を経験してからでも遅くはないかなと考えていました。別業種での経験を経てからの方が、実際にその立場になった時にも活かせることが多いのでは、と思っていたからです。

ただ弊社は家族経営で人数が少ないので、いざ先々代の祖父が倒れてしまうと人手が圧倒的に足りないということもあり、すぐに会社の仕事に従事し、このまま会社を継ぐためにも頑張っていこうと決めました。

急な決定ではありましたが実家の家業ということもあり、学生の頃からある程度の心構えは持っていました。だから「いきなり継ぐことになり慌てる」ということはありませんでした。子供の頃から父や祖父の仕事を見て感じていた「自分もいつか継ぐんだな。」という思いから仕事を手伝うことも多かったので、作業自体のノウハウであったり取引先の情報についても、すでにおおまかには頭に入っていて、会社に入るという点については大きな苦労はありませんでした。

そしてそのまま今に至ります。今は先代の父と僕で制作・販売・納品をやらさせていただいています。人員不足の問題から「会社に人を入れるかどうか」という話もしばしば出ますが、今のところはどうなるかわかりません。

ちなみに仕事の量が突発的なもので、かつ緊急性のある依頼だったとしても、その工程を全て二人で出来るようになっています。業務は分担するのではなく、お互いが倒れた時にお互いの業務が賄えるように、工場の作成過程はお互いが全て1人で出来るようにしてあります。

御社の強み、他社にはないこだわりを教えてください

弊社の強みとしては他の会社さんでは出来ない仕事をしていることです。他の会社の方が一朝一夕で習得できるような業務ではなく、やはりこれまでの会社としての経験があってこそ出来る仕事です。日本全国探しても似たことが出来る同業者さんは他にはいらっしゃらないです。

今ではどの会社も輸入品に頼っておりますが、やはり国産の分銅との違いは品質において大きく出てきます。そこで弊社では品質面で他業種や輸入品との差別化を図っています。

分銅と計量器


小型分銅と計量器

弊社では以前からJCSSの認定も持っていました。JCSSとは校正におけるISOのようなもので、国際的基準となる認定です。

例えば、ものさしのように長さを調整するもの、体重計のような重さを測るもの、水の量を量る流量計など、そういった「測るもの」に与えられる国際的な基準の認定を行う制度のことです。

つまりは国際的に定められた標準を持った事業者である、ということを認定されていたということなんです。ただ現在ではコスト面や業務形態、顧客のニーズとの不一致から、その認定を返上し、その認定を得るためにかかっていたコストを別のかたちでお客様に活かせるような製品づくりをしています。

そういった国際認定を過去に受けていたという実績と、弊社のような小さな会社だからこそ出来るお客様本位の製品づくりを目指し、日夜努力を続けています。

返上したとは言え、技術面では何の問題もなく、製造するものは同様の品質で出来上がりますから、この決定も弊社では今後への弊社もないものと自負しています。「認可を得られる技術」この弊社の強みを、更に安価に、そして沢山の人に提供していく、これが今の弊社のこだわりです。

経営者として苦労したこと、ツラかった時期などはありましたか?

やはり家族経営ということも、人数的な問題には苦しめられます。従業員が僕も含めて二人しかいないので、一気に大量の受注をいただくと昼夜を問わず働かなければ納期に間に合わない、なんてことも多々あります。

作業中の佐野さん


分銅を修理する佐野さん

例えば一番具体的な例を言いますと、12月や3月などの年度末になると、年末の予算を使いきろうとする会社さんも多いので、その時期を目標に予算取りをし、「この価格でできる数の分銅を用意してくれ。」という依頼が来たりします。そのため年末や年度末はたくさんの仕事がいただけるのですが、極端に集中してしまうので大変ですね。

しかもこの人手不足は例で話した通り慢性的なものではなくて、急に増えて~急に減って~という、かなり波のある問題なので、人を雇いにくいという難点もあります。何とかしないと、という考えはあるのですが、人件費というのはコストの中でも一番かかってくるものですし、次世代の育成や人不足の解消になかなか手が出せずにいます。

この仕事をしていて良かったと思う瞬間、やりがいなどを教えてください

弊社は少し特殊な業種になりますので、発注先が見つからずに困っていて、それこそ最後の最後に弊社のホームページに辿り着く、なんてお客様も少なくないんです。

他の会社さんに依頼しても特注品のような難しい製品の依頼だと断られてしまうことが多いようで、対応の出来る弊社を見つけて連絡がくるんです。そのようなお客さんがうちを頼って連絡をくれて「納期も短く、価格もそこまで予算も取れないが何とか作ってくれませんか。」と言ってくださります。

そういった際に弊社ではもちろん出来る範囲で作らせていただきますし、その結果として「本当に助かりました!」と担当の方に感謝されることもあります。そんな時頑張ってきてよかったなと心から思います。

会社としての今後の目標を教えてください

弊社では完全にメーカーとして仕事をさせていただいているので、弊社の売上を上げようとすると、商社さんを噛んでからエンドユーザーさん提供させていただきます。ただそうするとエンドユーザーさんは商社さんを通す分コストもかかってしまいます。

修理依頼のあった枕型分銅


修理依頼のあった枕型分銅

そこで弊社ではエンドユーザー様に直接の販売もさせていただいております。この現状で行っている直接の販売を更に沢山の人に知っていただいて、直接取引でより安く同じものを提供できるようになれば、とは思っています。そこで今後は弊社でも小売りにも力を入れていき、ユーザー様の更なる満足度を得たいと考えています。

またここ数年できちんとした会社さんにお願いしてホームページをつくっていただき、インターネットでの営業を勉強しました。1日に15アクセスがあるとすると「1人の営業マンが1日15件の会社を訪問する」のと同じ影響力があると考え、特に人不足の弊社ではこのホームページの影響力を今後は伸ばしていこうと考えています。

このホームページのメリットは他にもあって、弊社は特殊な職種になりますので営業先というのがそれこそ大きな会社さんであったり、研究機関であったり、大学など、いきなりアポイントメントを取るのが難しい会社さんばかりなんです。

だからこそこちらから狙いをつけて営業するよりも、「こんなことできます!」と大きく構えて看板を出しておいたほうが弊社のような業種としては新規の顧客を掴みやすくなります。今ではブランド力というか、会社自体の名前を売るためにも一役買ってくれています。

社長様自身の10年後のビジョンを教えてください

10年後となると僕は40歳手前になります。そうなるまでには、他の会社さんのともしっかりとしたネットワークを繋ぎ、弊社の分銅、重りを活用した試験機などの会社さんと、それこそ違う会社同士で一つのブランドを立ち上げることが出来ないかな、と考えています。

nagoyaseikisano05

実はそのために今も色々な人とお話をさせていただいていて、業種という枠ではなく、同じ業種内でも少し分野が違う会社さん、お客さんの取り合いにならないようなところで、しっかりと肩を組んで協力していければなと。弊社だけでは出来ないことを、こうした近い業種の会社さんたちと一緒になって行っていくことで、それこそ中小起業ではできないような大きなプロジェクトをこなせるようになるはずです。

まだ今は実現までには至りませんが、年齢を重ねて経験を重ねて、しっかりとした人と人とのコミュニケーションが繋がっていけば、絶対に出来ないことではないと思いますので、10年後がそうであるように頑張っていきたいです。

同業種に就く方へ、経営者としてのアドバイスをお願いします

もし僕が社員として雇うのであれば、例えば手先が器用だとか、体力に自信があるだとか、そういった採用よりも、そこれそ同じ作業が続くことも多い職種になりますので、根気よく同じことを続けられることが一番の素質かと思います。(なかなか才能としては認められにくいことですが)

僕はこの才能を大事な才能だと考えているので、同じことを続けてもそれがキツくない、気持ちがまいらない、そういった方が一番向いていると思いますよ。作業の中で必要な体力や筋力、技術などは後々ついてくる問題なので、何より根気!そしてそれを支える精神力!これが重要です。

同業種での起業、独立を目指す方へのアドバイスをお願いします

僕の場合、先代から譲り受けているので、起業という観点や独立という観点ではお答えすることが出来ませんが、今の立場に立っているからこそ思うことは、とにかく何でもやってみることですね。

失敗して、例えば倒産することになったとしても、その経験は失敗してみないと出来ないことです。何に対してもお金を払っているのだと考え、失敗してしたとしても、それは授業料として自分の身になります。そのお金の価値は絶対経験としてその後に生かされるので、どんなことにでもまずは挑戦していくことが一番です。

<プロフィール>

佐野健人 (さの けんと)

有限会社 名古屋精機製作所

http://nagoyaseiki.co.jp/

〒454-0811 愛知県名古屋市中川区三ツ池町2-35

TEL:052-361-5021 FAX:052-351-8361