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どうしてもお金が必要なときの最終手段は、中小の運輸会社

学歴もなく、スキルもなく、借金があり、子どもの養育費もまだまだ必要。そんな絶体絶命のピンチに立たされたとき、たった一つだけ選択できる職種があります。

この選択は、人生の中でどうしても切り抜けなければならない状況に追い詰められたときの非常手段です。その職種は、中小の運輸会社で中長距離のトラック運転手をすることです。

就職先が見つからずに困り果てていたとき、ハローワークで中距離トラックの運転手の募集が目にとまりました。給料は、30万円くらいと出ていたので、やってみる価値はあると思って応募してみました。心の中では、お金をもらって色々な所へ行ける、というスケベ心もありました。

地図を頼りにたどり着いた事業所は、2階建ての安普請で1階が事務所になっているようでした。入口の窓から中を覗いてみると、いかにもトラックの運ちゃんという強面の男たちが事務をしています。入口を軽くノックして入り、面接に来たことを告げると、女性の事務員に奥の部屋へ通されました。しばらく待っていると、肩幅の広い筋肉質の男が入ってきました。

この人は、この会社の専務でした。持参して差し出した履歴書をじっと見つめています。すると、ぼそっと一言。「面接でネクタイしてくる人は、おらんけぇ、どんな人かと思うたら、あんたは、ここへ来るような人じゃない」

中小の運輸会社は小泉改革から先、規制緩和とコスト削減の波を受け、さらに燃料高騰にもさらされて逆境の中にあります。専務の言った意味は、業界には学歴のある人が仕事を求めてくることはなく、現在の運輸業界の仕組みに耐えることは難しい、という意味のことでした。

「うちでよかったら、そりゃあ、いつでも受け入れてあげる」

そう前置きして、専務の語ってくれた内容は、あまりにも過酷なものでした。

休みは、月に1回あるかないか。中距離での運送業務とハローワークにはうたっているが、四六時中全国を駆け回る運送請負業。休憩は、どこかのトラックターミナルで2~3時間。そこで、カセットボンベで湯を沸かしてラーメンをすする。

次の荷受に遅れないように、休憩もそこそこ、燃料代を気にしながら走り続ける。手取りがいい月でも、せいぜい30万円。悪ければ、20万円を切ることもある。

専務は、ときおり深刻な表情を見せて運輸業の内幕を語ってくれました。いつでも受け入れてくれることの理由も教えてくれました。

つまり、過酷な労働条件であるにもかかわらず、利益が上がらないために若手の運転手が来てくれない。結果、トラック運転手が高齢化して労働力が足りなくなっている現状があるからだそうです。

ちなみに、運送業の面接に来る人の多くは経験者だそうです。中小のトラック運送業では、今以上の運賃の下落を防止するため、お互いに連携していると言います。

他の会社でトラックの運転手をしていて違うところへ変わるのは、日常的にあるそうです。結果は同じでも、気分が変わるからだそうです。しかも、そういう人たちを受け入れるのは、業界としての不文律のようになっているとも話してくれました。

どうしてもお金が欲しいピンチの時には、人情味の残るトラック業界を選択肢に入れるのも悪くないようです。面接を終えて、人を人とも思わないブラック企業よりも、まだ清々しい思いがしました。

オーストラリアで、最低運賃法が可決されたそうですから、その影響が日本に波及すれば、少しは労働条件も緩和されるかもしれません。そうなることを祈ります。