健康管理も仕事のうち-できる社会人の良質な生活
社会人になって仕事を覚え始める時期。おそらく多くの人が「健康管理も仕事のうち」と聞かされた経験があるのではないでしょうか。
心身ともに若いうちは、この言葉を真剣に受け止める人は少ないかもしれません。しかし歳を重ね、体調を壊したことで取引先や職場、ひいては家族にも大きな迷惑をかけてしまう体験をすると、この言葉の重さを痛感するようになります。
避けられない事故や病ならともかく、無茶な生活に起因する失敗は、自分の健康も管理できないことを露呈し、仕事上の信用をも失わせてしまうからです。
ここでは、学生生活を卒業したフレッシュな社会人が「良質な生活」を送るための手がかりを提案したいと思います。
睡眠の質を高める
1日24時間のうち、少なくとも3分の1以上の時間を占めるのが、いうまでもなく仕事です。
いっぽう、仕事に匹敵するほど大きな時間を占めていながら、その質があまり顧みられないのが「睡眠」でしょう。しかしこの睡眠時間こそ、次の日の仕事を気持ちよくスタートさせる重要な鍵を握っているのです。
一般的な日本人の睡眠時間は平均6-7時間といわれています。この時間が極端に短いとはいえないものの、多くの人たちが睡眠不足を自覚しているのです。
睡眠時間の不足は、血糖値を下げ、高血圧や糖尿病などの生活習慣病をひきおこす可能性があります。さらに免疫力を低下させ、感染症を発症しやすい体質につながると指摘されています。
しかし、睡眠時間が不足していること以上に深刻なのは、実は睡眠の「質」が低いことなのです。
眠りが浅かったり、無理な体勢での睡眠が恒常化すると、仕事に直接的にかかわる脳の重要な部位が、その働きを低下させる危険性があると指摘されているからです。
特にその機能低下は、計画性や記憶力、問題解決にかかわるため、責任のある仕事を担っている人には無視できないことでしょう。
そこで心がけたいことは、就寝時間を規則的にし、雑音をなくし、光を遮断して、良質な寝具で眠りにつくことです。
良質な寝具とは「ふかふか」な布団や枕を指すわけではありません。人間の頭や身体は意外に重量があります。長時間の眠りでもしっかり身体を支えてくれるだけの硬さが必要なのです。
なかなか疲れがとれないと感じている人は、専門店に相談して寝具を見直してみるのもよいでしょう。
食事のリズムをつくる
健康的な生活を送る上で、もう一つ欠かせない要素が食事です。
特に一人暮らしが多い新米社会人の場合、どうしても食事は偏りがちになり、高カロリー、高タンパクになってしまいます。
それを自戒して、できる限り自炊して栄養バランスのよい食事を心がけても、「時間がない」という現実の前に挫折する人も多いようです。
朝も昼も時間はない。唯一ゆとりがあると思われる夕食も、おおかた帰りが遅く、疲れているため手が回らないのが実情でしょう。
もちろん、質素で栄養価の高い食事を毎日つくるのが理想ですが、時間のない一人暮らしの若い社会人にも、実現可能な食生活のコツはあります。それは、三食分のご飯を炊くことで食生活のリズムを管理することです。
たとえば朝に三食分炊き上がるようにタイマーをセットして就寝する。そのご飯で朝食をとり、白ご飯だけの弁当をもって出勤する。夜帰ったら残りのご飯を食べ、再びタイマーをセットする、という具合です。
このリズムを常習化することで、塩分の多い外食に流れてしまう誘惑を食い止めるのです。おかずも作る余裕があればベストですが、一人暮らしの身であれば、お惣菜だけを買ってくるのもよいでしょう。
要は、ご飯を炊くタイミングと分量を定型化することで、健康的な食生活のリズムを習慣にするのです。あとはお惣菜の選択に集中すればよいのですから、面倒だと思いがちな男子でも実現可能でしょう。
そして、朝は大豆を中心としたタンパク質でしっかり食事をとり、夜は軽めで栄養価の高い食事を心がけましょう。もちろん、時にはパンや麺類といった変化を加えてもかまいません。
大切なのは、無理なく続けられる規則的な食事を、自分のスタイルでシステム化することなのです。
実現可能な適度な運動
社会人が健康管理をしていく上で、適度な運動が必要であることは誰もが理解していることでしょう。
もともとスポーツが好きな人であれば、特別に努力するわけでなくとも、休日を利用して汗を流しているでしょう。
しかし身体を動かす習慣から遠のいている人にとって、「適度は運動」は意外にハードルが高いのではないでしょうか。
よく行われているは、朝のジョギングと、仕事帰りのジムの利用です。しかし、それすら時間がない、あるいは意思が続かないという人が、おそらく新人社会人には少なくないと思われます。
そこでおすすめしたいのが、通勤を兼ねた意識的なウォーキングです。
たとえば通勤に電車を利用している人は、ひとつ遠くの駅から乗車するようにして、一区間を歩くように習慣づけるのです。それが持続できたら、もう一区間足を延ばしてみてもいいでしょう。
このような出勤時間を利用したウォーキングは、ジョギングなどの本格的な運動とくらべれば、フィジカルな面での効果はそれほど高いわけではありません。
しかし精神的な効果は無視できないものがあります。それは「自己効力感」を高めることにつながるからです。
「自己効力感」とは、心理学の用語で「目標を達成できそうだ」という自らの力の感覚です。
「ささやかな運動」でも、肉体をコントロールする力が退化することを予防する効果はあります。大きな仕事に向かう推進力を高める上で、このことは大きな支えになるはずです。
労働契約の原則からいえば、勤務時間の外にあるプライベートな生活を、仕事の論理であれこれ言われる筋合いはない、と考えたくなる人もいるかもしれません。
誤解してはいけないのは、仕事のために健康管理をするのではなく、健康的な生活を築くことが社会人としての基本ということです。
健康管理を怠ると仕事への影響も大きいのは事実であり、さらに仕事以上に、自分自身の人生に大きなダメージがあるはずです。
端的に言えば、仕事は二の次なのであって、働くための健全な心身でいることが、仕事の前提になるのです。
入社当時のみずみずしい希望と意欲を裏切らない社会人であり続けること。それが、「健康管理も仕事のうち」の真意といってよいでしょう。