• RSS

直接訪問するだけが営業じゃない。急がば回れで準備しよう

求人情報を眺めていると、もっとも件数が多いのが飲食サービス業。それと並んであるのが営業職です。門戸は広く、経験不問という会社が多いけれど、営業職ほど経験とスキルが活きる職業はないのではないかと、個人的には敷居が高い印象を持っています。

そこで、最近知り合うことのできた営業職歴40年のMさんに、それとなく話しを聞いてみました。Mさんはかつて、閑古鳥の鳴いていた仏具店の某営業所を、5年連続で全国販売額1位に押し上げた実績を持つツワモノです。

大手企業で長年事務方の仕事をしてきたMさんが結婚を機に奥さんの地元に転居、再就職したのが地元の仏具店でした。会社自体は全国規模だったそうですが、Mさんが勤めた営業所の成績は、お世辞にも褒められたものではなかったそうです。

営業自体が初めての体験だったMさんがまず考えたことは、仏具はどこに営業をかければ良いかということでした。葬儀屋は病院に営業をかけて、亡くなられた患者さんがあれば遺族に声をかけてもらえるようになる。では仏具屋は葬儀屋に営業をかければいいのか?

しかし当然のことながら、葬儀屋にはこれまで付き合ってきた業者がすでにあり、そこに新規で食い込むことはなかなかに難しいことです。それに、いくら必要な物とはいえ、悲しみに暮れる遺族に対して「仏壇を買いませんか」と言い出すのは胸が痛んだそうです。

そこでMさんが思い立ち取った行動は、お寺周りをすることだったそうです。お寺の朝は早い。出勤前にお寺へお邪魔し、境内や墓所の掃き掃除をさせていただくことから始めたそうです。頑張れば朝に1日2件のお寺を掃除でき、別のお寺へも外回りの勤務時間や勤務後の夕方にお邪魔して掃除をさせていただいたそうです。

地道な努力を続けているうちに、本堂で住職と話しができるようになり、墓所では墓参りのご家族やお客様を連れた墓石の営業マンと顔見知りになる。そこから自然発生的に、「仏壇を新調するならMさんに声をかけてみたらいい」と言っていただけるようになったそうです。

遺族も、お坊さんから勧められれば素直に受け入れることができる。また、墓所でMさんと知り合った人たちは、そのまた知り合いに声をかけてくれるなど、個人宅に飛び込み営業することなく、毎月確実に販売成績が上がったといいます。気がつけば閑古鳥の鳴いていた営業所は、5年連続で全国1位の販売成績を誇る優良営業所に変貌していたそうです。

Mさん曰く、営業職ほど為人(ひととなり)が物を言う職業はないといいます。言葉はよくないかもしれませんが、直接使う人だけを落とそうとすると、電話をかける先も飛び込みする先も決まってくる。大抵は門前払いで話しも聞いてもらえない。扱う商品の金額が大きいほど、初対面の人間から買ってくれるバカはいないと。

でも、お寺と檀家のお付き合いは世代を超えています。住職は法事や棚経など事あるごとに檀家宅を訪問し、どのお宅にはどの程度の仏壇があって、どの仏具にガタがきているかを無意識に把握されているんだそうです。信頼のおける住職からの勧めがあれば、仏具や仏壇の買い替えは前向きに考えてくださるそうです。

Mさんは最初に、エンドユーザーから関係性を遡って考えたのだそうです。

  • 仏壇・仏具は誰に必要か?→遺族
  • 遺族とはどこに行けば会えるのか?→病院、石材屋、寺、墓地
  • その場所と遺族ともっとも信頼関係が強いのは?→寺

その一番遠いところから、準備を始めたといいます。まずは伏線として顔を知ってもらうこと、営業はそれからだ、と。

営業職は見知らぬ家庭を訪問して物を売る度胸第一の職業だという印象が、Mさんのお話しによって少し変わりました。大事なのは度胸より、入念な前準備と努力の継続、そして人柄なのですね。急がば回れという言葉がこれほどピッタリくる職業は、他にはないように思います。

もしいま営業成果が滞りがちだという方がいらっしゃったら、急がば回れ、視点を変えて商品ユーザーから関係性を遡ってみませんか?新しい信頼関係をはぐくむことができれば、成績はあとからついてくるのかもしれませんよ。