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挨拶を無視する先輩にも挨拶したほうがいい理由

新入社員が最初に受ける新人研修。そこでは業務知識などに先駆けて、社会人の基礎となるビジネスマナーや職場での振る舞いなどを学びます。業種・職種にかかわらず、たいていどこの新人研修でも一番に教えられるのが「挨拶は人間関係の基本、職場では元気に挨拶をしよう」ということ。

実際研修の場では、講師役の社員は率先して挨拶するし周りも新人ばかりだから、比較的元気な挨拶が飛び交うことになります。

しかし、研修が終わり現場に配属されてみると……「おはようございます!」と元気に挨拶しても、よくて会釈、ほとんどの人は無視。そばを通る時に「おはよう」と言ってくれる丁寧な人もいる反面、全員にではなく一対一で挨拶しても返事を返さない人さえいます。

「挨拶は人間関係の基本」と言っておきながら、実際に挨拶してくれる先輩はほとんどいない、そんな状況で、挨拶をし続けるのはとても気力がいることです。

筆者の勤める職場も、残念ながら挨拶が盛んとは言えません。毎年配属されたばかりの新人さんがフレッシュな笑顔で「おはようございます!」と挨拶してくれるものの、一週間、二週間とたっていくうちにその声はだんだん小さくなり、一か月もたつうちには聞かれなくなってしまいます。

それでも筆者は、やっぱり挨拶はしたほうがいいのではないかと思います。今回は筆者の経験をもとに、諦めて挨拶をやめてしまったA君と、諦めずに挨拶を続けたB君の二人をケーススタディとしてご紹介します。

パート1 周りに流され、諦めてしまったA君の話

「なんで新人だけ挨拶しなきゃいけないんですかね」入社2年目のA君は不機嫌そうに言いました。A君の先輩にあたる筆者の「新人教育の準備は順調?」という質問に対する答えでした。

弊社では新人教育を若手社員が担当しています。若手社員に「物事を教える、上に立つ」という立場を体験してもらうと同時に、本人が入社時から積み重ねてきたものを振り返り、できるようになったことの多さをかみしめてもらいたいという思いがあります。同時に日々の業務に追われて忘れがちになっている、就職時のフレッシュな思いや基本的なビジネスマンとしての挙動を思い出してほしいという目的もあります。

A君は記念すべき第一日目、ビジネスマナーの講義を担当することになっており、そこで名刺の渡し方だとか社会人の相応しい服装だとか、敬語の使い方やメールの出し方、会議室やエレベーター・タクシーでの上座下座……などという、基本的なマナーを半日かけて一通り教えることになっています。そして、その講義で一番最初に教える内容が、挨拶でした。

「挨拶は基本でしょ。新人だけじゃなくて、当然みんなするべきことだよ。新人だけって考えがおかしいんじゃない」あまり冷えていないビールを飲みながら筆者はA君を諌めました。しかしA君は、さらに不機嫌そうに答えるのです。

「挨拶は基本っていうけど、ほとんどの人が挨拶なんてしていないじゃないですか。××さんとか○○さんなんか、対面で挨拶したって無視ですよ。ひどいじゃないですか」

××さんや○○さんの顔を思い浮かべました。確かにあの人たちは挨拶を無視します。新人の頃挨拶して無視されて、何か悪いことしたかなとか嫌われているんだろうかとか悩んだな、と懐かしく思い出しました。

「別に先輩から後輩に頭下げろなんていうつもりはないですけどね、後輩がした挨拶に返事くらいしてもバチは当たらないと俺は思うんですよ」よっぽど鬱憤が溜まっていたのか、A君は遠慮なくしゃべり続けます。

「返事も返ってこない挨拶を新人に強要して『フレッシュで職場が明るくなった』とかバカじゃないですか。そういうくだらないことから新人のモチベーションは下がっていくんですよ」

入社式ではやる気にあふれる自己紹介をしていたA君が、ほんの数か月で仕事に対して完全に受け身態勢の無気力社員になってしまった理由はこれだったのかもしれないと、筆者は軽くショックを受けました。

「でも、××さんとか○○さんが挨拶しないのって、みんな何となく感じ悪いって思ってるし、やっぱり挨拶はしたほうがいいんじゃないかな。私も朝来たら周りの席の人に挨拶してるけど、一緒に働いているんだし挨拶しないほうが不自然じゃない?」

A君は鼻で笑いました。「俺だって周りの席の人にはしてますよ。でも新人教育でやるのは、全体への挨拶でしょう?職場の誰もやっていないことを新人にだけやらせようなんておかしい話ですよ」

「だいたい先輩だって全体に向かって挨拶なんかしてないじゃないですか。この件で俺に何か言う権利ないです」ひねくれた調子で言うA君に、筆者はそれ以上何も言うことが出来なかったのでした。

業種・職種にかかわらず、ほとんどの新人研修では、「挨拶は人間関係の基本、職場では元気に挨拶をしよう」と教えます。しかし実際の現場で元気に挨拶をしている先輩社員はほとんどいません。それどころか、新人の挨拶を無視し、返事を返さない先輩も珍しくありません。そんな環境では、自分だけ挨拶をするのは嫌になってしまいます。

パート1は挨拶しないという周囲の先輩に流されて挨拶をやめてしまったA君の話をご覧いただきました。パート2は諦めずに挨拶を続けたB君の話をご覧ください。

パート2 自分のためにと挨拶を続けたB君の話

弊社では、会社の創立記念式典の際に優秀者の表彰があります。仕事で何らかの目覚ましい業績を上げた人や難易度の高い資格を取得した人などを褒め称えるのです。わずかな額ではありますが奨励金も出るため、式典の中でもかなり盛り上がる瞬間です。

今年の表彰も、勤続賞から功労賞、業務改善賞……と例年通りの順で続き、最後の難関資格合格者の表彰が終わったところで、社長がもう一枚賞状を取り出しました。

「顧客特別賞、B君」

会場がざわつく中、B君は賞状と金一封の封筒を受け取りました。

「B君すごいじゃない、何をしたの」かつて同じプロジェクトにいた気安さで、筆者はB君に問いただしました。「顧客特別賞」なる謎の賞は、社長の説明によると「平常のレベルを大きく超えた顧客満足度を与えた功績により」与えられた特別な賞とのことで、とあるお客様からB君を名指しで評価する電話が社長あてに入ったことにより受賞が決まったのだそうですが、具体的に何がお客様に評価されたかの説明まではありませんでした。

「お客様の問題に合致するようなソリューションの新規提案が通った? それとも足しげく通ったような態度が評価されたとかそういうこと?」興味津々で問う筆者に、B君はこともなげに言いました。「いや、ただ元気に挨拶していただけですよ」

B君が言うには、B君のいるプロジェクトには挨拶の習慣がなく、それも社内だけならまだしも、お客様に対しても覇気のない挨拶をしたり、人によっては無視したりという酷い態度だったそうです。

しかしB君はお客様には元気に、満面の笑顔でB君から挨拶することを徹底しました。さらに社内の相手に対しても、返事が返ってこなくても気にせず毎日元気に挨拶を続けていました。その様子をお客様が見ていて、

売上だとか製品のことだけでなく、基本の人間関係を作ろうとしている誠実な姿勢が見えた。御社の製品の品質には満足していたが、挨拶もそこそこに商談に入るような態度をとられ続けて気分は良くなかった。B君はまだ若く、業務知識等に関しては確かに不十分な点も多いが、我々を『金のなる木』ではなく、『お客様』としてみてくれているのが伝わってきた。御社に必要なのはそういう社員だろうから、是非B君の態度を評価してあげてほしい、そしてできれば、B君が御社の残念な社風に染まってしまわないようにしてほしい」

と社長に伝えてきたのだそうです。

「新人研修でも言われますけど、挨拶は基本ですからね。私は基本のことを当たり前にやっただけです」平然と言うB君が格好良く見えた筆者は思わず言ってしまいました。「でもB君のプロジェクトって、○○さん(パート1でも登場した、挨拶を無視することで有名な先輩)もいるし、挨拶なんてしない人ばかりなのに良く続いたね」

「挨拶しないから、○○さんは皆に感じ悪いって思われて敬遠されているじゃないですか。私は一緒に働く人に敬遠されたら仕事がやりにくいと思うので、そういうことはしないんです」ストレートに物事を言うB君は、この時もはっきりと大先輩の○○さんをこき下ろしました。

「それに私は、挨拶も出来ないような人は人と思っていないですから。○○さんが挨拶しないからって、私が○○さんのレベルまで落ちて合わせてあげる必要なんてありませんしね」

やっぱり挨拶はしたほうがいい ~後書きにかえて~

いかがだったでしょうか。自分だけ大声で挨拶する気恥しさやバカバカしさから、A君のように挨拶をやめてしまう人がほとんどではないでしょうか。しかし、B君のように、挨拶するのは自分のためと割り切って挨拶を続けることで、同じように挨拶は大切だと考える人から「挨拶を大切にする、礼儀のなっている人だ」という評価を受けることもあります。

それになにより、やはり挨拶は人間関係の基本、筆者は新人教育だけでなく、幼稚園でも小学校でもそう習ってきました。ですからやはり、そこにいる人に挨拶をしないというのはなんとなく気持ちが落ち着かないものです。挨拶が返ってこないと少しイライラしてしまう未熟な人間ではありますが、なるべく毎日、一人でも多くの人に、きちんと挨拶をしていきたいものです。